僕のバイブル



 長い長いひとつの物語が、先日ついに完結を迎えた。
 僕がその物語に初めて触れたのは、確か小学校低学年の時だったと思う。

 僕の母は、ともかく酒盛りが大好きな人だった。週に一度はご近所さんの家に上がり込み、その家の旦那さんが帰ってくるか、我が家の主が仕事から帰ってくるまで酒を飲んでいた。週末や休日ならば、そこに旦那衆も交じって麻雀なんかをしていたものだ。
「これから◯◯さん家に行くけど、あんたどうする?」
 僕が夕食を食べ終わる頃、こう聞かれる。手前味噌になるが僕は小さな頃から行儀がよくしっかり者だったので、大人の集う酒盛りにも行きたいと言えば連れていってもらえたし、気が向かなければ留守を預かった。
 行くか留守番をするかは半々だった。けれど一軒だけ、毎度母に同伴してお邪魔していたお宅があった。これを仮に、田中さんとしよう。
 田中さんのお宅にはだいちゃんという、十歳以上年の離れたお兄さんがいた。僕は物心つく前から、よくだいちゃんに遊んでもらっていた。今思えば、さぞかし鬱陶しいガキだったに違いない。だいちゃんの彼女が遊びに来ていても、僕はだいちゃんの部屋にノックもせずに突入したりしていたのだ。おちおちイチャイチャも出来なかったろうに、よく笑って迎え入れてくれたものだと今更ながら感心してしまう。(しかしだいちゃんは後にこの彼女と結婚しているので、僕の存在が二人の愛を深める〝試練〟として機能していた可能性も否めない……よね?)
 こんなナイスガイなだいちゃんがいるから、僕は田中さん宅での酒盛りにはついていくのだが、しかしだいちゃんがいなくても僕は結局田中さん宅にお邪魔した。
 というのも、このだいちゃん、マンガが大好きで、主要少年週刊誌を全て購読しており、だいちゃんの部屋の前には読み終わった週刊誌がいつも山積みになっていたのだ。
 マンガやゲームに目がなかった僕にとって、それはまさしく宝の山。
 酒気漂う居間で繰り広げられる大人たちの喧騒を尻目に、僕は静かな廊下に寝転がり、夢中でマンガ雑誌を読み耽った。
 ジャンプにサンデーにマガジンに、そしてチャンピオン――そのチャンピオンの中に、一際目を引くマンガがあった。
 肌の質感や、筋肉の隆起どころか筋繊維の一本一本までもが誇張された絵柄。
 血反吐や骨折なんて当たり前、肉片が飛び散り、平然と眼球が抉られる残酷なまでの戦闘描写。
 それは小学校低学年の僕にはとてもショッキングで、目を逸らしたくなるほどに凄絶なマンガであった。子供ながらに「あ、これ、子供の俺にはまだ早過ぎる大人のマンガなんだな」なんてことを考えるほどの……。
 しかし、子供には早過ぎるマンガこそが子供の肌にはちょうど合う。結局僕はそのマンガが放つ激烈なパワーに当てられて、すっかりそのマンガにイカレてしまった。

 ここまで来れば、僕が何のマンガの話をしているのかお気づきの方も多いだろう。
 それは、とある壮大な親子喧嘩を描いた、超々筋肉質な物語――

 グラップラー刃牙だ。

グラップラー刃牙 (1) (少年チャンピオン・コミックス)グラップラー刃牙 (1) (少年チャンピオン・コミックス)
(1992/02)
板垣 恵介

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 僕がだいちゃんの部屋の前で読んだ時には確か地下トーナメント編で、(なぜ記憶に残っているのがこのシーンなのかは分からないが)確か渋川剛気と鎬昂昇が闘ってたり、ジャックが白熊をフルボッコにしてたシーンが思い出される。
 そう、僕はこのバキシリーズという物語をずっと追い続けてきた。(同様にワンピースも小学生の頃より追い続けているが、バキシリーズのほうが出会いも付き合い出したのも早かった)
 だいちゃんの部屋の前の廊下から始まり、中学生になって剣道を始めたあの時も、高校生になり柔道部を退部して代わりに音楽に傾倒していったあの時も、ダメ人間としてのアイデンティティーが完全に確立した大学時代も、ラノベ作家という肩書きを隠れ蓑にニート生活をしている今現在も、僕はバキシリーズとともに歩んできた。
 そしてつい先日、『範馬刃牙 37巻』をもって、バキシリーズが完結を迎えたのだ。

範馬刃牙 37 (少年チャンピオン・コミックス)範馬刃牙 37 (少年チャンピオン・コミックス)
(2012/10/05)
板垣 恵介

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 一人の男を――いや、日本中の男雄漢(おとこ)を長年に渡り虜にしてきたモンスターコンテンツだ。その魅力が日本漫画史上屈指のものであることは言うに及ばない。例えばその、魔法の類があるわけでもないのに物理法則を無視した技術や速さや破壊力を見せるという〝荒唐無稽さ〟が、我々読者にワクワク感だったり、笑いをもたらしたというのは誰もが共通して認識しているところだろう。
 そして以下の点も、みな魅力として肌で感じているはずだ。
 それはこのバキシリーズというマンガは、明らかに他のバトル漫画とは異質であるということ。
 大抵の作品は、バトル(戦闘)に理由を求める。
 「◯◯の命を守るために戦う!」だの「同じ獲物を狙う邪魔者を排除する!」だの「親の仇!」だの、心境の変化を伴う人間関係や利害関係の解決の手段として戦闘を華やかに演出し、エンターテイメントにしているのが、大抵の作品の有り様だ。戦闘そのものを目的にするようなキャラはむしろ、「戦闘狂」だの何だのと狂人系キャラとして描かれる。
 しかしバキシリーズは違う。登場人物のほとんどが、他作品で言うところの「戦闘狂」であり、人間関係や利害関係などのドラマを理由に戦うのではなく、「俺とお前、どっちが強いか」という極めて本能的な動機で戦っているのである。
 こんなエキサイティングなマンガ、そうそう無い。
 徹底して「戦い、強さとは一体なんぞや?」というテーマを掘り下げるこの姿勢はもはや哲学であり、それを描ききったこの作品は紛れも無い名作なのである。
 これほどの作品を世に生み出して下さった板垣恵介先生には、いち読者としての感謝と、いち作家としての敬意を送りたく思い、このようにつらつらと筆を走らせた次第だ。
 


 あぁ、最高だ。最高のマンガだった。
 僕はもう、このマンガが愛おしすぎてたまらない。 



 だからこそ、いちファンとして、愛を胸に笑顔でツッコミを入れてこの作品への餞にしたいと思う。



 あのぉ、先生、
 


 烈海王はどうなったんですか!?




 ラップ・グラップラー餓鬼/餓鬼レンジャー



 それじゃあバキ! また会える日まで!
 
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プロフィール

秀章(ヒデアキ)

Author:秀章(ヒデアキ)
11月1日生まれ。うさぎ年。

ライトノベルやソーシャルゲームのシナリオなどを書かせていただいております。


小学館ガガガ文庫より、
『脱兎リベンジ』、
『空知らぬ虹の解放区1~2』
『GランDKとダーティ・フェスタ』

スニーカー文庫より、
『サークルクラッシャーのあの娘、ぼくが既読スルー決めたらどんな顔するだろう』を発売中。

連絡先 : hideaki1101☆gmail.com 
(☆→@)

よろしくお願いします。

著書
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